摂食障害からの「回復」を目指す場合、最も大切なことは、「何をもって回復したとするか」ということです。
周りから見て、最も分かりやすいのは、栄養のある食事をするようになる、むちゃ食いや過食嘔吐がなくなるなど、「食行動に関する症状がなくなったとき」ということもできるでしょう。このように、食べることに症状がなくなることはよいことです。
ですが、症状が一時的に収まるだけという場合もあり、「心身ともに回復しました」と言えるようになるには、症状以外にも目を向ける必要があります。ときおり、「症状があるから生きていける」「症状がなくなったから、かえって辛くなった」と表現する方もおられます。
症状は残りながらも、学業や仕事で活躍している方も数多くいます。
そうした方々はうまく症状と折り合いをつけながら、自分のやるべきこと、やりたいことに打ち込んでいます。
そうするうちに、生きるのが楽になっていた、という方もいらっしゃいます。
最も大切なことは、周囲の人が回復の最終目標とする状態を決めるのではなく、本人が自らの人生を納得のできる形にしていくことです。
(ただし、心身が危険な状態のときなどは、医療的ケアを受けるために医師等の指示に従ってください)
わが子が摂食障害を発症し、そのことで思い悩み、苦しむ親も数多くいます。
そうしたときに、「早く治せ、早く治せ」とばかりに、無理に食べさせようとしたり、食べ物を隠したりすることがしばしばあります。
また、本人の気持ちとは別に、複数の医療機関をドクターショッピングしたり、占いやスピリチュアルなものにすがったりするケースもしばしばみられます。
このような状態では、本人の回復は一向に進みません。
このとき、本人は、周囲の人たちによって「早く回復する」という目標を押しつけられた状態になっています。
様々な書籍等で述べられていることですが、摂食障害は、目に見える症状・行動[食べること・食べないこと]の向こう側に、本人が抱える心の苦しみや飢えがあるといわれれています。このとき、どれだけ食行動に関して改善しようとしても、表面的な部分の問題解決が行われているにすぎず、本質的な部分はけしてよくなりません。
そのため、上記のように回復をせかされることは、本人の心をより深くえぐり込むような行動になってしまいます。
こうなると、本人は無意識のうちに抵抗を始めます。
本人だって、早く治りたいのはやまやまです。ですが、本当の問題を解決せずに、症状だけをどうにかしようとされたときに、本人は痛みを感じます。そのため、より症状がひどくなったり、他の疾患を併発したり、問題行動を起こしたりといった抵抗手段に出ることがあります。
私たちは、回復した状態を、次のように考えています。
症状に取りつかれることなく、社会生活がきちんと営め、自分の人生を自分の足で歩むことができていれば、たとえ症状が残っていたとしても十分に立派な人だといえるでしょう。